中小企業にとって、AI(人工知能)技術の導入は、業務効率化、生産性向上、そして新たなビジネスチャンスの創出に不可欠な戦略となっています 。しかしながら、AI技術の導入には初期費用や人材育成など、多大なコストがかかることも事実です 。そこで、国や地方自治体では、中小企業のAI技術導入を支援するための様々な助成金制度を設けています 。本記事では、2025年度に中小企業がAI技術導入時に活用できる主要な助成金制度について、その概要、申請資格、助成金額、申請方法などを詳しく解説します。
AI技術導入を支援する主な助成金制度
AI技術導入に活用できる主な助成金制度は以下の通りです。
助成金制度名 | 概要 | 申請資格 | 助成金額 | 申請方法 | 対象経費 | 注意点 |
---|---|---|---|---|---|---|
IT導入補助金 | 中小企業・小規模事業者等のITツール導入費用を補助する | 中小企業・小規模事業者等 | 最大450万円 | 電子申請 | ソフトウェア費、クラウド利用料、ハードウェア費、導入関連費など | 事前に審査を受け、登録されたITツールのみが対象となります。 |
ものづくり補助金 | 中小企業の革新的な製品開発や生産プロセス改善を支援する | 中小企業 | 最大1億円 | 電子申請 | 機械装置費、システム構築費、技術導入費など | 50万円以上の設備投資が必須です。 後払い方式のため、資金繰りに注意が必要です。 |
小規模事業者持続化補助金 | 小規模事業者の販路開拓等を支援する | 小規模事業者 | 最大250万円 | 電子申請または郵送 | 機械装置費、広報費、展示会出展費など | 販路開拓と併せて業務効率化の取り組みも支援対象となります。 |
事業再構築補助金 | 中小企業等の事業再構築を支援する | 中小企業等 | 最大3億円 | 電子申請 | 建物費、機械装置費、システム構築費など | 経済社会の変化に対応するための事業再構築が対象です。 |
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等がITツールを導入する際の費用の一部を補助する制度です。AI技術を含む様々なデジタルツールの導入費用が補助対象となります。2025年度よりAI専用枠が新設されました 。

概要
経済産業省が所管する制度で、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的としています。業務効率化やDX推進のために、特にバックオフィス業務の効率化など、付加価値向上につながるITツールの導入を支援します。対象となるITツールは、事前に審査を受け、IT導入補助金事務局に登録されているものに限られます。AIツールも含まれていますが、すべてのAIツールが対象となるわけではありません。
また、相談対応等のサポート費用やクラウドサービス利用料なども補助対象に含まれます。
2025年度のIT導入補助金では、導入関連費が拡充され、IT活用の定着を促す導入後の活用支援、導入後の保守サポートも補助金の対象となりました。
申請資格
中小企業・小規模事業者等が対象となります。
助成金額・補助率
補助枠と類型によって、補助率と補助上限額が異なります。
補助枠 | 補助率 | 補助上限額 |
---|---|---|
通常枠 | 1/2以内 | 5万円~450万円 |
インボイス枠(インボイス対応類型) | 3/4または4/5(小規模事業者) | 最大350万円 |
インボイス枠(電子取引類型) | 2/3以内または1/2以内 | 最大350万円 |
セキュリティ対策推進枠 | 1/2以内 | 5万円~100万円 |
複数社連携IT導入枠 | 3/4以内または2/3以内 | グループでの導入に応じて変動 |
申請方法
交付を受けるには、IT補助金事務局のポータルサイトからの「gBizIDプライム」のアカウント取得や「SECURITY ACTION」宣言の実施が求められます。さらに、その後「みらデジ経営チェック」で取り組むべき課題を把握し、審査を受けなくてはなりません。審査通過後に、導入したいツールとIT導入支援事業者を選択し、交付申請を行います。この時のIT導入支援事業者は、IT導入補助金の事務局で「IT導入支援事業者」として登録を受けた業者でなくてはなりません。 申請は全てWebフォームで行います。IT導入支援事業者から招待される「申請マイページ」にログインし、必要事項を入力して書類をアップロードします。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、中小企業が生産性向上のために行う革新的な製品・サービス開発や生産プロセス改善のための設備投資等を支援する制度です。AIを活用した自動化や効率化プロジェクトなど、生産性向上に役立つAIツールの開発・導入も、要件を満たせば補助対象となります。2025年度からは、AI関連投資を重点的に支援する「デジタルトランスフォーメーション促進枠」が新設されました。

概要
正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」です。全国中小企業団体中央会が運営しており、主に製造業において、生産性向上につながる革新的なサービスの開発や試作品の開発、生産性向上を進めるための設備投資等を支援するものです。AIシステムやツールも補助対象となることがあります。
働き方改革や社会保険の適用拡大、インボイス制度の導入や最低賃金の引き上げといった社会の変化に大きな影響を受ける中小企業や小規模事業者を支援する制度です。
申請資格
中小企業基本法で定める中小企業の範囲に該当し、かつ日本国内で補助事業を実施することが必要です。
助成金額・補助率
補助上限額は事業規模や申請枠によって異なり、750万円から最大8,000万円(大幅賃上げに係る補助上限額引き上げの特例を適用した場合は1億円)まで設定されています。補助率は原則1/2ですが、小規模事業者であれば補助率は2/3になります。ほとんどの申請者が補助率2/3で申請しているのが現状です。
主な申請枠には、省力化(オーダーメイド)枠、製品・サービス高付加価値化枠、グローバル枠があり、それぞれ異なる目的や補助率が設定されています。
申請方法
申請には、法人・個人事業主向け共通認証システム「GビズID」の取得と3〜5年の事業計画の策定が必要です。電子申請を行い、審査を通過し採択されると、交付申請・決定を経て事業実施、完了後の確定検査を受けて補助金が支払われます。
デメリット
- 50万円以上の設備投資が必須です。
- 後払い方式のため、資金繰りの工夫が必要です。
- 申請から報告までの長期的な事務負担が発生します。
- 事業終了後の成果報告が必要です。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が販路開拓等に取り組む費用の一部を補助する制度です。AIによる業務効率化の取り組みも補助対象となります。2025年度より「AIスモールスタート枠」が新設されました。

概要
小規模事業者が取り組む販路開拓や生産性向上の取り組みを支援する補助金で、全国商工会連合会が運営しています。地方自治体が中心となって、地域の小規模事業者のビジネスの持続化や成長に必要な設備投資費用などを補助します。自治体によって申請条件や期間が異なりますが、AIシステムやツールも補助対象となることがあります。
小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する働き方改革やインボイス制度の導入などの制度変更等に対応するため、小規模事業者等が取り組む販路開拓等の取組の経費の一部を補助することにより、地域の雇用や産業を支える小規模事業者等の生産性向上と持続的発展を図るものです。
販路開拓等と併せて行う業務効率化(生産性向上)の取組も支援対象となります。
申請資格
小規模事業者等が対象となります。
小規模事業者とは、商業・サービス業は常時使用する従業員5人以下、宿泊業・娯楽業、製造業などであれば、常時使用する従業員20人以下の事業者を指します。個人事業主も該当業種であれば対象になります。
助成金額・補助率
補助上限額は通常枠で50万円、特別枠では200万円まで支給され、インボイス特例の要件を満たす場合は最大250万円まで補助が可能です。補助率は基本2/3、賃金引上げ特例で3/4です。
申請方法
補助金を受けるには、商工会議所の支援を受けながら事業に取り組むことが要件となっています。そのため、全国の商工会議所や商工会に事業支援計画書の交付を依頼し、補助事業実施に関するアドバイスを受けたうえで申請書類の提出が必要です。
申請は、基本的に「JGrants」からの電子申請となります。JGrantsを利用するためには、gBizIDプライムアカウントが必要です。
事業再構築補助金
事業再構築補助金は、新分野展開、事業転換、業種転換、事業再編など、事業構造の転換に挑戦する企業を支援する制度です。AIを活用した新規事業の立ち上げや既存事業の転換などが補助対象となります。

概要
ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するため、AI技術の活用など思い切った事業再構築に意欲がある中小企業や中堅企業が対象となります。補助枠には、通常枠、卒業枠、グローバルV字回復枠などがあり、企業規模や目的に応じて申請できます。
コロナ禍で事業継続が困難になった中小・中堅企業が、新しい事業展開を検討する際の支援制度として注目されています。
例えば、従来の居酒屋経営からテイクアウト・デリバリー事業の強化、オリジナル商品の製造販売、あるいはゴーストキッチンの展開など、さまざまな事業再構築の形に対応しています。
申請資格
中小企業や中堅企業が対象となります。
助成金額・補助率
補助金額は500万円から最大3億円、補助率は2/3または1/2です。従業員数と応募枠によって補助金額や補助率が異なります。
申請方法
申請するには、まずGビズIDプライムアカウントを取得し、認定経営革新等支援機関と相談しながら事業計画を策定します。その後、電子申請システムで申請を行い、採択後の交付申請、事業実施、実績報告を経て補助金が給付されます。
助成金申請の際の注意点

最新の公募要領を確認する
助成金制度は、毎年内容が変更される場合があります。必ず最新の公募要領を確認し、要件や申請期間などを把握しましょう。
毎年継続して実施される補助金であっても、対象となる事業や技術・補助率・上限額などが変更されることもあります。前年度の情報をそのまま使用せず、必ず最新の公募要領を確認しましょう。
申請資格を満たしているか確認する
各助成金制度には、それぞれ申請資格が定められています。自社の事業内容や規模、従業員数などが要件を満たしているか、事前に確認しましょう。
事業計画を入念に作成する
AI技術導入によって、どのように生産性向上や業務効率化を図るのか、具体的な事業計画を策定することが重要です。計画の内容が曖昧であったり、実現可能性が低いと判断された場合は、採択されない可能性があります。
必要書類を漏れなく準備する
申請には、事業計画書や財務諸表など、様々な書類の提出が必要です。必要な書類を事前に確認し、漏れなく準備しましょう。
申請期限を守る
申請期限を過ぎると、申請を受け付けてもらえません。余裕を持って申請手続きを行いましょう。
申請をスムーズに行うためのヒント

専門家の支援を受ける
助成金申請の手続きは複雑で、専門的な知識が必要となる場合もあります。中小企業診断士や行政書士など、助成金に詳しい専門家に相談することで、申請書類の作成や手続きをスムーズに進めることができます。
相談窓口を活用する
地域によっては、商工会議所や産業支援センターなどで、助成金に関する相談窓口を設けている場合があります。積極的に活用しましょう。
参考資料を活用する
経済産業省や中小企業庁などのウェブサイトでは、助成金制度に関するパンフレットやガイドブックなどを公開しています。これらの資料を活用することで、制度の概要や申請方法などを理解することができます。
まとめ
AI技術の導入は、中小企業にとって大きなメリットをもたらしますが、導入にはコストや手間がかかることも事実です。しかし、国や地方自治体が提供する助成金制度を活用することで、これらの負担を軽減し、AI技術導入をスムーズに進めることができます。
AI技術導入を検討する際は、まず自社の課題やニーズを明確化し、どのようなAI技術を導入することで課題解決できるのかを検討しましょう。その上で、それぞれの助成金制度の特徴を理解し、自社に最適なものを選択しましょう。
助成金申請の手続きや要件は複雑な場合もあるため、事前にしっかりと情報収集を行い、不明な点があれば専門家に相談するなど、準備を入念に行うことが重要です。
AI導入を検討する中小企業は以下のステップで進めることをおすすめします。
- 自社のビジネスニーズと潜在的なAIソリューションを特定する。
- 利用可能な助成金を調査し、自社の適格性を確認する。
- 詳細な事業計画を策定する。
- 専門家のサポートを受けながら、申請手続きを進める。
- AI技術を導入し、効果を測定する。