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LLMの弱点を克服!RAGが実現する「賢い」AI

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RAG

大規模言語モデル(LLM)は、自然言語処理の分野に革命をもたらし、文章生成、翻訳、要約など、さまざまなタスクで目覚ましい成果を上げています。しかし、LLMにはいくつかの弱点も存在します。特に、「ハルシネーション(事実に基づかない情報を生成してしまう問題)」「知識の更新頻度」 は、LLMの信頼性と実用性を制限する要因となっています。

本記事では、これらの弱点を克服し、LLMをより「賢く」する技術として注目されているRetrieval-Augmented Generation(RAG) について解説します。

RAGとは?

RAGは、LLMの出力の精度と信頼性を向上させるための技術です 。LLMは、学習したデータに基づいて回答を生成しますが、その知識は学習データの範囲に限られています。そのため、最新の情報や専門的な知識を必要とする質問に対しては、正確な回答を生成できない場合があります。  

RAGは、LLMが外部の知識ベースにアクセスし、最新の情報を取得できるようにすることで、この問題を解決します 。例えば、企業の社内文書や専門的なデータベース、最新のニュース記事など、LLMの学習データには含まれていない情報を利用することができます 。RAGは、LLMが最新の情報を参照して回答を生成するプロセスであり、LLMの出力に「信頼できる情報源」に基づいた裏付けを与えます 。  

RAGは、LLMに以下の3つの段階で動作します。
RAGを利用することで、LLMはより正確で、最新の情報に基づいた回答を生成することができるようになります。

外部知識の検索

LLMのモデルは学習時点での知識しか内部に持っていないため、最新情報や専門性の高い情報が不足しがちです。あらかじめ学習されたパラメータのみを頼りにするのではなく、外部のドキュメントやデータベースから必要な情報を動的に検索して取り込む仕組みを備えています。
通常、言語モデルの知識を更新したい場合は、新しい情報を学習させてモデル全体をファインチューニングする必要があります。しかし RAG であれば、外部データベースを更新・拡張するだけで最新情報をモデルに反映できます。

情報の統合

RAGでは、外部から検索によって得られた情報をLLMの入力に組み込むことで、単にモデル内部の知識だけに頼らずに応答を生成します。検索結果の情報は、一度前処理されたうえでLLMへ入力されます。これにより、LLMの持つコンテキストが強化され、トピックをより包括的に理解できるようになります。この強化されたコンテキストを活用することで、LLMの生成する応答は正確さや有益性が増し、さらに魅力的な表現を生み出すことができます。加えて、LLMへの入力プロンプトに「事実」を明示的に提示しておくことで、「ハルシネーション(虚偽の内容の生成)」を減らすことが可能となります。RAGの根幹となるアイデアは、ユーザーの質問にもっとも関連性の高い事実を提供することと、システムの指示や安全性上の制約を守りつつ、LLMがその事実に基づいて正しく応答できるようにする点にあります。

生成

LLMが強化されたコンテキストを活用して、実際の回答や文章を出力します。あらかじめ提示されている事実をベースに応答を行うことで、誤った情報を生成してしまう(いわゆる「ハルシネーション」)リスクが低減し、ユーザーの質問に対して正確かつ納得感のある回答を提供できます。また、LLMは事前に与えられたシステムの指示や安全性の基準を守りつつ、より自然な言い回しや分かりやすい表現を生成することが可能です。

RAGとRAGを用いない従来のLLMの違い

RAGは、従来のLLMとは異なり、外部の知識ベースを活用することで、LLMの抱えるいくつかの課題を克服しています 。  

従来のLLMは、訓練データに含まれる情報に限定され、その知識は静的なものです。そのため、時間の経過とともに情報が古くなったり、新しい情報に対応できなかったりする可能性があります。また、訓練データに偏りがある場合、LLMの出力にも偏りが生じる可能性があります。

一方、RAGは、外部の知識ベースにアクセスすることで、最新の情報や特定の分野の知識を活用することができます。これにより、LLMはより正確で、信頼性の高い回答を生成することができます。また、RAGは、LLMが回答の根拠となる情報源を明示することを可能にするため、ユーザーは回答の信頼性を確認することができます。

RAGは、従来のLLMの制限を克服することで、AIシステムの精度、信頼性、および透明性を向上させることができます。

データの扱い方

RAGでは外部に保存されたドキュメントやナレッジベースを検索し、必要な部分を動的に取得してから、LLMの入力として統合します。これにより、モデルがもともと持っていない最新の情報や専門的な知識を柔軟に取り込むことができるという特徴があります。一方、従来のLLMは、学習時に取り込んだデータのみを内部に保持しています。そのため、学習時点以降に得られた新しい情報には対応しにくく、追加で学習(ファインチューニングなど)を行わない限り、モデルが未知の領域に踏み込むと不正確な回答をしやすくなる傾向があります。

正確性

RAGでは外部ドキュメントから正しい知識を取り込んだうえで回答を生成するため、特に事実に基づいた質問に対してはより正確な応答を行いやすくなります。LLMは、内部で保持しているパラメータに基づいて予測を行うため、知識が限定的な分野や最新情報に関しては誤った内容を生成してしまうことも少なくありません。RAGは、そのような「ハルシネーション」を減らす手段としても有効です。ただし、検索に用いるドキュメントの信頼性や更新状況も、回答の正確性に影響を与えることを留意する必要があります。

適応性

RAGは、外部の知識ベースにアクセスすることで、新しい情報や変化する状況に柔軟に対応することができます。一方、従来のLLMは、新しい情報に対応するために再学習が必要となる場合があり、適応性に限界があります 。  

RAGのメリット

RAGは検索対象のデータベースを更新すれば、すぐに新しい情報を回答に活かせるという利点があります。モデルそのものを再学習しなくても、外部知識を差し替えたり追加したりするだけで柔軟に対応できるため、運用コストの面でも優れています。これに対して、従来のLLMは新しい情報を扱おうとする際、ファインチューニングや再学習といった作業が不可欠になりがちです。そのため、大規模なモデルほどアップデートにかかる時間やコストが増大し、メンテナンス性も含めて運用が難しくなる場合があります。

最新情報の活用

LLMは、学習時に使用したデータの範囲内でしか回答を生成できません。RAGは、外部の知識ベースから最新の情報にアクセスすることで、この制限を克服します。例えば、RAGを搭載したチャットボットは、最新の株価情報にアクセスして正確な金融情報を提供することができます。

正確性の向上

LLMは、学習データに含まれる誤りや偏見の影響を受ける可能性があります。RAGは、信頼できる情報源から情報を取得することで、より正確な回答を生成します。例えば、RAGを搭載した医療診断システムは、最新の医学論文や臨床ガイドラインを参照することで、より正確な診断を支援することができます。

ユーザーの信頼感向上

RAGは、LLMが回答の根拠となる情報源を明示することを可能にします。これにより、ユーザーは回答の信頼性を確認することができます。例えば、RAGを搭載した検索エンジンは、検索結果とともに情報源を表示することで、ユーザーの信頼感を高めることができます。

開発者の制御性向上

RAGを使用することで、開発者はLLMがアクセスする情報源を制御することができます。これにより、LLMの出力の質を向上させ、特定の目的に合わせてカスタマイズすることができます。例えば、企業は、RAGを使用してLLMが社内文書にのみアクセスするように制限することで、機密情報の漏洩を防ぐことができます。

コスト削減

LLMを再学習させるには、多くの時間とコストがかかります。RAGは、外部の知識ベースを利用することで、再学習の必要性を減らし、コストを削減することができます。例えば、企業は、RAGを使用してLLMを最新の製品情報に更新することで、再学習のコストを削減することができます。

RAGのデメリット

RAGは多くのメリットを提供する一方で、以下のようなデメリットも存在します 。

検索の精度

RAGの検索ステップでは、クエリの生成やベクトル化モデルのチューニング、データベースの整理・インデックス化といった作業が大きく影響します。検索の精度が低いと、必要な情報を取り逃がしたり無関係な文書を拾ってしまい、回答が誤ってしまうリスクが高まります。適切なクエリ設計や専門用語への対応、再ランキングなどの工夫を取り入れて検索結果の精度を高めることで、RAG本来の強みである最新かつ正確な知識をLLMに供給するという機能がより効果的に働き、質の高い応答を実現しやすくなります。

情報の質

検索先の外部データベースやドキュメント自体の信頼性や更新状況が大きく影響します。出所が不明瞭な情報や更新が滞っているデータベースを参照すると、誤った知識を含む回答や古い情報に基づく回答になりかねません。LLMが正しく引用しようとしても、そもそもの参照先が不正確であれば、結果として誤答が生じるリスクが高くなります。

計算コスト

単にLLMを動かすだけではなく、検索エンジンやベクトル化したデータベースを利用するための仕組みを追加で動かす必要があることから、インフラの負荷が大きくなりやすい側面があります。検索結果を得るためにリアルタイムで意味検索を行う場合、効率的なインデックスやサーバーの設計なども必要となり、運用コストが増大することがあります。

複雑さ

RAGは「リトリーバル(検索)」「統合(前処理)」「生成(LLM)」の少なくとも三つのステップを経るため、従来のLLM単独での推論と比較してシステム全体の構成が複雑になります。各ステップごとにチューニングや評価を行わなければならないため、開発・保守の難易度も上がります。さらに、検索用モデルと生成用モデルの相互作用を最適化するには、さまざまなパラメータ調整や追加の実験が必要となるため、導入と運用に手間とコストがかかる点も留意すべきです。

RAGシステムの性能は、LLMがアクセスするデータの質に大きく依存します。データが整理されていない、最新でない、または偏っている場合、RAGシステムは正確な情報を取得できず、LLMは誤った回答を生成する可能性があります 。  

RAGの将来展望

RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、大規模言語モデルと外部のナレッジベースや検索システムを組み合わせる手法として注目されており、今後さらに多方面での活用が期待されています。まず、検索技術自体の進歩に伴って、より高精度の意味検索やリアルタイムのデータ取得が可能になれば、RAGによる情報統合の正確性や網羅性が一段と向上することが考えられます。また、ドメイン特化型の埋め込みモデルや、ドメインに合わせたクエリ生成の自動化などが進むことで、医療・法務・金融といった専門領域での利用価値が高まるでしょう。

さらに、ナレッジグラフとの連携や、テキスト以外のマルチモーダルデータ(画像や音声、動画など)の組み込みも将来的な展望の一つです。ナレッジグラフを利用して情報間の関係性を明示的に管理すれば、曖昧なクエリや複雑な推論が求められる問い合わせにも、より適切に対応できるようになります。画像や音声情報を扱えるようになると、RAGはマルチモーダルの生成や高度な認識タスクにまで応用範囲を広げる可能性があります。

また、LLM自体の進化も見逃せません。今後、より強力な言語モデルが登場するにつれて、RAGとの組み合わせによるメリットがさらに大きくなると考えられます。たとえば、LLMが高度な推論能力や厳密な文脈理解を備えるようになれば、検索結果から得られる知識をいっそう巧みに活用できるようになるはずです。逆に、より大規模かつ強力なモデルほど、外部知識の取り込みを効率化するための仕組みとしてRAGが有用になる面もあります。最新情報を動的に参照できるRAGの特性は、巨大モデルの更新コストを下げる観点からも重要です。

さらに、社会的・法的な要請が強まるほど、安全性や説明責任(アカウンタビリティ)の確保が求められるようになりますが、その点でもRAGは有利です。検索のプロセスを記録・追跡することで、どのような情報に基づいて回答を生成したかを後から検証しやすくなり、信頼性の確保やコンプライアンス対応に役立つと期待されています。今後は、こうした説明可能性やデータガバナンスとの連携も重要なテーマとなっていくでしょう。

このようにRAGは、より高度な検索技術の進化、LLMの高機能化、ドメイン特化モデルの発展、マルチモーダル対応の進展など、多くの要素と相互に影響し合いながら発展していくと考えられます。外部の知識ソースを効果的に利用するという基本的な価値は変わりませんが、さまざまな技術や社会的要請との組み合わせ次第で、RAGの活用範囲や重要性は今後ますます拡大していくでしょう。

まとめ

RAGは、大規模言語モデルに外部の検索結果を統合し、新しい情報や専門的な知識を動的に取り込む仕組みとして注目されています。従来のLLMに比べて、最新情報の利用や正確性、適応性の向上が期待できる一方、検索精度や情報の質、計算コスト、システムの複雑さといった課題があります。今後は検索技術やドメイン特化型モデル、マルチモーダル対応の進歩に伴い、医療・金融などの専門領域での活用拡大や、より高度な推論を伴う応答への応用が進むと考えられます。また、外部データの利用状況を追跡しやすいことから、安全性や説明責任の確保にも寄与し、社会や法的要請への対応も含めたさらなる普及が見込まれます。

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