「ChatGPTに企画のアイデア出しを頼んでも、どうも的外れな答えしか返ってこない…」 「もっと業務でうまくAIを活用したいのに、指示の出し方が分からず結局自分でやった方が早い…」
最近、クライアント企業の企画・マーケティング担当者の方々から、冒頭のような悩みを本当によく伺います。
せっかくの便利なツール、使いこなせないのは非常にもったいないですよね。
ご安心ください。この記事を最後まで読めば、なぜLLM(大規模言語モデル)が人間のように文章を生成できるのか、その本質的な仕組みが「感覚的に」理解できます。そして、仕組みが分かることで、なぜあなたの指示が今まで上手く伝わらなかったのか、どうすれば意図通りに動いてくれるのか、その具体的なヒントが手に入ります。
※LLMとは何かを知りたい方はこちらの記事をご参照ください。
専門用語は一切使いません。ビジネスの現場を知るコンサルタントとして、皆さんの実務に直結する「AIを使いこなすための勘所」をお伝えします。
LLMは魔法じゃない!その正体は「超高性能な予測変換」
まず、結論から申し上げます。 ChatGPTをはじめとするLLMが巧みに文章を生成できる理由は、「次にくる単語を、ものすごい精度で予測し続けているから」です。
これだけです。本当に、これだけなんです。
「え、それだけ?」と思われたかもしれません。しかし、この本質を理解することが、AIを使いこなすための第一歩になります。
LLMを例えるなら、「インターネット上にある膨大な書籍やウェブサイトをすべて読破した、物知りだけど少し空気が読めない新人アシスタント」のようなものです。
彼は魔法を使っているわけではありません。過去に読んだ膨大なデータ(知識)の中から、「この文脈だったら、次にこの言葉が来る確率が最も高いな」という計算を、猛烈なスピードで繰り返しているに過ぎないのです。

LLMの心臓部:「確率」で次の言葉を選ぶ仕組み
もう少し具体的に見てみましょう。
あなたがLLMに「日本の首都は」と入力したとします。 LLMの頭の中では、学習したデータに基づき、次のような思考が展開されます。
- 「日本の首都は」という文章に続く確率が最も高い単語は何か?
- 学習データ上、「日本の首都は東京です」という文章が圧倒的に多い。
- したがって、次にくる単語は「東京」である確率が99.9%だ。
こうして「東京」という単語が出力されます。さらに、「日本の首都は東京」の次に続く言葉として「です」が最も確率が高いと判断し、最終的に「日本の首都は東京です。」という一文が完成するのです。
企画書の文章でも、メールの文面でも、この原理は全く同じです。文脈を読み取り、膨大な知識の中から「最もそれらしい言葉の続き」を紡ぎ出している。これが、LLMが文章を生成する根本的な仕組みです。
彼らは言葉の「意味」や、文章に込められた「感情」を理解しているわけではありません。あくまで、膨大なテキストデータにおける単語と単語の「関係性(パターン)」を数学的に学習しているだけなのです。
この「意味を理解しているわけではない」という点が、次の章で解説する「なぜ指示がうまくいかないのか?」という問題に直結してきます。
なぜ指示がうまくいかない?LLMの”クセ”と上手な付き合い方
LLMの正体が「超高性能な予測変換」だと分かると、「なぜ指示が意図通りに伝わらないのか」その理由も見えてきます。
あなたは、LLMに対して「ダメな上司」のような指示を出してしまっているのかもしれません。私自身、コンサルタント時代に要件定義が曖昧なためにプロジェクトが迷走する現場を数多く見てきましたが、AIへの指示もそれと全く同じです。
LLMがあなたの意図を汲み取れない主な理由は、以下の3つです。
理由1:前提条件(コンテキスト)が圧倒的に足りない
先ほどの新人アシスタントの例えを思い出してください。
あなたが、その優秀だけど経験の浅いアシスタントに「面白いキャッチコピー考えておいて」とだけ伝えたら、彼はどうするでしょうか?おそらく、何が「面白い」のか、誰に向けた何の商品のコピーなのか分からず、途方に暮れてしまうでしょう。
LLMも同じです。
【ダメな指示の例】
面白いキャッチコピーを考えて。
この指示では、LLMは「面白い」という言葉から連想される、ありとあらゆるパターンの文章をランダムに生成するしかありません。運が良ければ良いものができるかもしれませんが、大抵は的外れな結果になります。
【良い指示の例】
あなたは、腕利きのコピーライターです。 以下の条件で、30代の働く女性が仕事帰りに思わず買いたくなるような、新作コンビニスイーツのキャッチコピーを3案考えてください。
- ターゲット: 30代女性、都内在住、オフィスワーカー
- 商品: 濃厚な宇治抹茶を使った、少し贅沢なチーズケーキ(価格:398円)
- 訴求したいこと: 1日の疲れを癒すご褒美感、本格的な抹茶の味わい
- トーン: 少し大人っぽく、共感を誘うような優しい雰囲気で
いかがでしょうか。ここまで具体的に指示(プロンプトと言います)を与えれば、新人アシスタント(LLM)は迷いません。自分が誰で(役割)、何を(目的)、誰に(ターゲット)、どのように(トーン)伝えれば良いのかが明確になるため、あなたの意図を汲んだ精度の高いアウトプットを返してくれる確率が格段に上がります。
理由2:“感情”や“常識”を言葉にしないと伝わらない
LLMは「美味しい」という言葉は知っていますが、「美味しい」と感じた時の幸福感や、口の中に広がる甘い香りを経験したことがありません。
同様に、ビジネスにおける「常識」や、業界の「暗黙の了解」も知りません。彼らが知っているのは、あくまでインターネット上に書かれたテキストデータだけです。
ですから、私たちが当たり前だと思っていることでも、言葉にして伝えなければなりません。
例えば、企画書作成を依頼する際に、 「弊社の強みである『顧客第一主義』を盛り込んで」 と指示しても、LLMにはその言葉の重みや、具体的な行動指針が分かりません。
そうではなく、 「『顧客第一主義』として、具体的には『導入後3ヶ月間の手厚いフォローアップ体制』や『24時間対応のチャットサポート』といった点を、ユーザーメリットとして分かりやすく訴求してください」 といったように、背景や文脈、具体的な要素を言語化してあげる必要があります。
これは、AIを使いこなす上で非常に重要な「翻訳作業」と言えるでしょう。
理由3:一貫性がないのは「創造性」の裏返し
「同じ質問をしても、毎回違う答えが返ってくる」 これも、LLMあるあるです。
これはバグや欠陥ではなく、意図的にそう設計されています。LLMには、出力のランダム性を調整する「Temperature(温度)」という設定があります。これが少し高めに設定されていると、毎回確率のサイコロの振り方が少しだけ変わり、多様な文章が生成されるのです。
これを「欠点」と捉えるか、「長所」と捉えるかで、LLMとの付き合い方は大きく変わります。
- 欠点と捉える場合: 毎回同じ品質の定型文を作らせたい、といった用途には向いていません。
- 長所と捉える場合: アイデアの壁打ち相手としては最適です。自分一人では思いつかないような、多様な切り口のアイデアを無限に提供してくれます。
毎回違う答えが出てくることを前提に、「10個アイデアを出して、その中から良さそうなものを自分で選んで磨き上げる」という使い方をすれば、LLMはあなたの創造性を何倍にも増幅させてくれる、最高のパートナーになり得るのです。
明日からできる!LLMを優秀なアシスタントに変える「プロンプトエンジニアリング」入門
ここまでで、LLMの仕組みと、なぜ指示がうまくいかないのかが見えてきたと思います。 ここからは、LLMを「指示待ちの新人」から「自律的に動く優秀なアシスタント」へと育てるための、より具体的な指示出しのテクニック(プロンプトエンジニアリング)をご紹介します。
私がRPAソリューションズで業務自動化のコンサルをしていた際も痛感しましたが、RPAであれAIであれ、機械に意図通りに動いてもらうには「いかに具体的で、誤解の余地のない手順書(指示)を作れるか」が全てです。
コツ1:「役割」を与えて専門家にする
プロンプトの冒頭で「あなたは〇〇です」と役割を定義するだけで、LLMの出力の質は劇的に変わります。
あなたはプロのマーケティングコンサルタントです。
あなたは小学校の先生になったつもりで、子供にも分かるように説明してください。
あなたはシェイクスピアです。情熱的なスタイルで文章を書いてください。
役割を与えることで、LLMは参照する知識の範囲や、文章のトーン、専門用語の使用レベルなどを、その役割に合わせて最適化しようとします。これは最も簡単で、最も効果の高いテクニックの一つです。
コツ2:「お手本」を見せて意図を伝える(Few-shotプロンプティング)
百聞は一見に如かず。言葉で説明するのが難しい場合は、お手本を見せてあげるのが一番です。
例えば、顧客からの問い合わせメールを、丁寧なビジネスメールに書き換えてもらいたい場合。
【お手本の提示例】
以下のルールに従って、文章を書き換えてください。
【お手本】
- 元の文章: 在庫ってありますか?
- 書き換えた文章: お世話になっております。貴社製品「〇〇」の在庫状況についてお伺いしたく、ご連絡いたしました。
【本題】
- 元の文章: いつ届きますか?
- 書き換えた文章: ?
このように、1つか2つ例(ショット)を見せてあげることで、LLMはあなたが求めるアウトプットの形式やレベルを正確に学習し、それに倣ってタスクを実行してくれます。
コツ3:「思考プロセス」を分解させて複雑なタスクを任せる
一度に複雑な要求をすると、LLMは混乱してしまいます。人間でも、一度にたくさんの指示を受けるとパンクしてしまいますよね。
そんな時は、タスクを小さなステップに分解して、一つずつ実行させるのが効果的です。
【悪い指示の例】
新規事業の企画書を作って。
【良い指示の例】
新規事業の企画立案を手伝ってください。以下のステップで進めましょう。
- ステップ1:市場分析 まず、現在のフィットネス業界の市場トレンドについて、主要なポイントを5つ挙げてください。
- ステップ2:ターゲット設定 次に、ステップ1のトレンドを踏まえ、我々が狙うべきターゲット顧客のペルソナを3つ提案してください。
- ステップ3:提供価値の定義 最後に、それぞれのペルソナに対して、どのような独自の価値を提供できるか、具体的なサービス内容を考えてください。
このように、思考のプロセスをこちら側で設計し、対話しながら進めていくことで、最終的に質の高いアウトプットにたどり着くことができます。これはまさに、コンサルタントがクライアントと議論を深めていくプロセスと同じです。
LLMの可能性ともっと賢い使い方
ここまで、LLMの仕組みと基本的な使い方について解説してきました。 LLMは、文章を生成するだけのツールではありません。その本質は「巨大な知識ベースとの対話インターフェース」です。
- 企画の壁打ち相手
- 膨大な議事録の要約とタスクの洗い出し
- アンケート結果の分類や感情分析
- SNS投稿文のアイデア出し
- プログラムコードの生成やレビュー
このように、マーケティング担当者の日常業務の、あらゆる場面で活用できるポテンシャルを秘めています。
そして、この技術をさらに発展させると、私たちの生活や仕事をより豊かにする、全く新しいサービスを生み出すことも可能です。AIは、もはや一部の技術者のためのものではなく、全てのビジネスパーソンが使いこなすべき「強力な道具」なのです。
まとめ:AIを使いこなし、一歩先の働き方を実現しよう
最後に、内容を振り返ってみましょう。
- LLMの仕組みはシンプル: 膨大なデータから「次に来る確率が最も高い単語」を予測し続けているだけ。意味や感情は理解していない。
- 指示がうまくいかない理由: 「前提条件」「常識」「具体的な指示」が不足しているから。AIに対して「ダメな上司」になっていないか見直そう。
- AIを育てる3つのコツ: ①役割を与える、②お手本を見せる、③思考プロセスを分解する。これだけで出力の質は劇的に向上する。
- AIは魔法の杖ではない: しかし、使い方次第であなたの能力を何倍にも増幅させてくれる「最高のパートナー」になり得る。
この記事を読んで、「なるほど、だからうまくいかなかったのか」「明日からこうやって指示してみよう」と感じていただけたなら、これ以上に嬉しいことはありません。
まずは今日の帰り道にでも、ChatGPTを開いて「あなたはプロの編集者です。今日の会議の内容を3行で要約してください。」と、役割を与えて指示を出すことから試してみてください。きっと、今までとは違うAIの反応に驚くはずです。
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